薬品を溶解する時の基本

基本的に、処方に書かれている薬品は「処方の順番」に溶解してきます。
例えば下記の例ですと・・・。

Kodak D-72 保存液1リットル
(50℃)750 ml
メトール3.0 g
無水亜硫酸ナトリウム45 g
ハイドロキノン12.0 g
1水塩炭酸ナトリウム80 g
臭化カリウム2.0 g
水を加えて総量 1000 ml

まず温水を用意します。水は水道水を暖めてもまぁ良いですけど、理想は蒸留水。 でも日本の水道水の質からしてそこまでは必要なく、あらかじめ数分にわたり煮沸したものを取り置いて、不純物が沈殿してから上澄みをくみ取ってポリタンクなどに保存しておきます。
それを暖めて使いま〜す。
温度が50℃となっていますが、たいていの場合がこれくらい。 やや低めでも充分溶かせる場合は40℃という指定もあります。
この処方では 750ml ですね。 最後に仕上げる量より少ないのは、言うまでもなく薬品を溶かしていくと量が増えるからです。 アホでも分かりますな。

ボクがこれまでに目にした日本の本とかホームページとかだと、基本通り処方の順番に従うと言うことで、まずはメトールを溶かすことになります。 多分、多くの人がそうしているのではないかと思いますが・・・。
が、ここにイキナリ落とし穴があります。
いろいろな処方を観ると分かりますが、無水亜硫酸ナトリウムを代表とする「保恒剤」は常に最初の方に書かれていますよね。 それが何故かと考えればおわかりのように、保存液を作っている間に薬品が酸化するのを防ぐため、先に保恒剤を溶かすよう処方が書かれているのです。
ところが、メトールは常に保恒剤より先に書かれます。 これは先に保恒剤をたっぷり溶かしてしまうとメトールが溶けないからです。 アルカリ性だと溶けないんですね。 しかし、メトールは酸化して欲しくない代表です。なにしろ現像主薬ですから。 しかも、そもそもが温水に入れただけで簡単に溶ける薬品ではないので攪拌しなくてはなりません。 これではわざわざ進んで酸化させているようなものです。
そこで、まず最初にひとつまみ程の無水亜硫酸ナトリウムを溶かし、それからメトールを投入して攪拌・溶解します。これがホント。
実際には10gやそこらの無水亜硫酸ナトリウムを先に投入しても、メトール数グラムなんて余裕で溶けます。
この「最初の無水亜硫酸ナトリウムひとつまみ」は覚えておきたいコツです。

概して処方の順番は、保恒剤、現像主薬、アルカリ剤、抑制剤になります。
メトールが最初に書かれている理由は保恒剤の後だと溶けにくいと言う物でしたが、他にはpHによって溶けやすい溶けにくいがある薬品が適切な順番に収まっている事があります。 上の処方例にはありませんが、フェニドンやグリシンが処方の後半に出てくるのはこうした理由ですね。アルカリ剤の後に書かれることがほとんどです。
また、当然ながら後になるほど溶液は濃くなっていて溶けにくくなります。 ハイドロキノンはアルカリ剤の前、臭化カリウムは簡単に溶けるので最後でイイや、というところでしょう、きっと。
というわけで、処方の順番にはちゃんと意味があります。処方順に溶かしていくというのは守らなくてはいけないルールなんですね。

さて、メトールを投入したら、完全に溶けたのを確認する、つまり目視で溶液中に固体が見えなくなるまで攪拌します。穏やかにね。
全て溶けたと判断したら、次に無水亜硫酸ナトリウムを投入します。 一度にドドドッと入れてもまぁ、平気は平気なんですが・・・市販の調合済み薬品で混ざってるヤツを一気に投入すると、溶解するのがほとんど困難という事になっちゃいますが、自家調合のように分けて作業を進めている場合にはわりと平気なんです・・・とはいえ、やっぱり溶かすのが大変になってくるので攪拌しながら少しずつの方が良いです。
それ以降も同様に、先に投入した薬品が完全に溶けたな、と判断してから次へ進みます。

室温が低かったり、あるいはチンタラ作業している場合、処方によっては最後の方でなかなか溶けず、結晶やら粉末状の物やらが溶剤の中でくるくるくるくるいつまでも回っている事がありますよね。 たいていの場合、溶液の温度が下がり過ぎてしまったからです。
そういう時は、熱いお湯を入れた大きな容器に作業している容器を浮かべて、やんわりと暖めながら攪拌します。 ちゃんと処方通りに計量して順番も守っていればちゃんと溶けますので、焦ってはイケマセン。
それでもどうしても最後の最後にくるくる物質が残ってしまったら・・・無視しちゃいましょう(きっぱり)。
いつまでも攪拌して酸化させてもしょうがありません。 それに、だいたいからして少々の結晶が残ったってどうってこと無いんです。 なんの影響もありません。計量誤差より遙かに小さな問題です。気にしない気にしない。
それでもやっぱり見た目で気になるので、保存瓶に移す際に濾過しちゃいましょう。 コーヒー用の紙フィルターで充分です。 薬品に混ざっていたり、作業中に入ってしまった埃や塵なんかの不純物を取り除く目的で、ボクは必ず濾過してます。

全部溶かしたら、最後に水を加えて溶液の全体量が処方通り(多くの場合1リットル)になるよう調整します。 お湯ではなく冷水を使うことが多いですね、次は保存ですから、暖かいままだとポリ製の保存瓶が変形してしまいますからね。
暖かいうちにポリ瓶に入れる場合は、冷水を張った大きめの容器にポリ瓶を入れた状態で注いでいきます。 中が暖かくても外側が冷たいのでチャラになります。最初はポリ瓶がプカプカ浮いてますので、途中でひっくり返さないようにね。

どうにも溶けないヤツ
困ったことに、よく使われる薬品の中にもなかなか溶けないヤツが居ます。 それがフェニドン。 溶けにくい上に細かいパウダー状で、容器の縁にくっついたり溶剤の中でダマになってプカプカ浮かんだり、始末に困ります。
その上、通常使用されるフェニドンの量はごくごくわずか。 数グラムなんて量はまず要りません。コンマ数グラムなんてのが当たり前のように出てきます。 秤の分解能が 0.1g だとすると、誤差を考えると計量不可能ですね。
そこで、次のような水溶液をあらかじめ作っておきます。
 (50℃)750ml
重亜硫酸ナトリウム6g
フェニドン2g
冷水を加えて総量 1000ml
日本の本やホームページで「フェニドンはアルコールに溶かしてから」というのをよく見かけますが、そのパターンですと保存性が皆無ですので、実際の使用量だけを正確に計量する(困難ですよね)か、余分に作って残った分(ほとんどが余剰になるはずですが)を破棄するかしかありません。
上の水溶液なら短期間とはいえいくらかの保存性がありますのでオススメです。
1000ml 中に 2g は 0.2%水溶液と言うことになります。 従いまして、処方に「フェニドン 0.2g」とあったらこの水溶液を 100ml となります。
2g は分解能 0.1g の秤でもそこそこ正確に計れますし、液体の計量は 20ml くらいは充分正確にいけますのでかなり細かい単位まで正確に計れることになります。
注意しなくてはイケナイのは、フェニドン水溶液 100ml分の余裕が総量に無くてはイケナイという点。 普通、処方通りに進めていくと最後に100mlやそこらは余裕がありますので問題になりませんが、フェニドンだけでなく臭化カリウムやベンゾトリアゾールなども水溶液で、と甘い計画を立てていると最後に1リットルを超えてしまったり。いずれも使用量が極端に少ないことがあるので水溶液が便利なのです。 特にベンゾトリアゾールはほとんどの場合に水溶液となります。
もちろん、フェニドンの量が多い場合には当然です。
そこで、それを見越してスタート時点での温水の量を減らして置かなくてはなりません。 減らしても、ほとんどのケースで問題なく溶解出来ますが、処方を読んであらかじめ計画を立てましょう。 また、臭化カリウムなどは濃いめの水溶液(10%程度)とすれば良いでしょう。

保存性を考えると
トリエタノールアミンを入手可能なら、フェニドンの溶解にはこちらがオススメです。 ボクはトリエタノールアミン100mlに5gのフェニドン(5%)を溶解してありますが、この保存液は容易に酸化せず無駄がありません。
また、プロピレングリコールかエチレングリコール(ラジエター不凍液)が入手可能なら、保存性からも一考に値します。


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