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赤外フィルター
普通、赤外写真に使うフィルターを赤外フィルターと言いますが、よく考えるとちょっと変な言葉です。 実際には、可視光を遮断して赤外線を透過するのですから、可視光フィルターの方がいいような気がしますよね。 だって、紫外線を遮断するフィルターはUVフィルターと呼ばれているのですから。
でもまぁ、しょうがありません。思いついたので書いてみたまでです。

さて、これまでにも書いてきたので、赤外フィルターというのが可視光に相当する波長を遮断するフィルターであることはおわかり頂けているはずです。 それはシャープカットフィルターと呼ばれる部類の物であり、別の言い方ではロングウェーブパスフィルターだとすでに書きました。 特定の波長より短い波長を遮断し、それより長い波長を透過するフィルターです。
したがって、一般的なモノクロ写真で使われるイエローやオレンジ、レッドのフィルターと仕組みは同じ、分類も同じです。 レッドのフィルターの延長線上にあるという感じでしょうか。
そもそも赤外フィルムというのが、可視光の赤方向への感光性を延長した物なのですから、フィルターもそうあって当然ですね。

さて、俗にイエローフィルターと呼ばれているものは、ケンコーやマルミの製品でY2という品番が付いていますが、これが480nmでのシャープカットフィルターである事はすでに書きました。
480nmで、と言っても、そう簡単に断崖絶壁のようなシャープカットが出来るわけではないので、やや斜めの崖になっていて、ちょうど50%透過となる波長を指して、480nmのフィルターとか560nmのシャープカットと呼んでいるわけです。

可視光と呼ばれるのはだいたい700nm台の半ばまでの波長です。 したがって可視光を遮断するには、その辺りの波長に設定されたシャープカットフィルターを使う事になります。
しかし、意外な事に、写真用品屋さんに行っても、普通の円形フィルターでそうした製品が並んでいませんね。 日本の代表的な赤外フィルムだったコニカ赤外750では、オレンジのフィルター(560nmのシャープカットフィルター)でも十分だったせいなのかもしれませんが、馴染みのあるフィルターメーカーが作ってないんですね。

しかし、角のシート状フィルター(富士フイルムから出ています)には、細かく段階分けされたシャープカットフィルターが揃っていて、75x75mmのサイズは1枚1000円くらいで売ってます。
それこそ、紫外線カット用の低い番手から赤外領域まで、20nm刻みで細かく揃っているわけですが、シャープカットフィルターの品番は「SC-XX」となっていて、末尾の数字が波長を示しているので分かりやすいです。 SC-48なら480nm、SC-64なら640nmという具合です。
富士フィルムの商品ラインナップでは、SC-XXの品番はSC-74まであります。 それに続いて、IR-XXという赤外用である事を示す品番に切り替わりますので、赤外フィルターに分類されるものはIR-76からという事になりますね。写真はIR-76ですが、ご覧のように真っ黒です。
同じように波長を2桁の数字で表しているHOYAの製品でも、赤を示す"R"を品番に持ったR-72の次に赤外をあらわす"IR"のIR-76と、赤外フィルターは760nmからという分類です。

ところで、760nm設定のフィルターですと、740nmまでしか感度のないイルフォードSFXのようなフィルムでは撮影可能な波長のほとんどが透過しません。そこで、それより下の物を選ぶ事になります。 赤外フィルターとして売られているものではなく、シャープカットフィルターのSC-70やSC-72と言う事になりますね。
これだと若干の可視光が通りますが、多量ではないので赤外写真効果も結構得られます。 逆に、いくらかの可視光を含めて撮影するなら、目的に合わせてもう少し低い番手のシャープカットフィルターでもいいわけです。
実際のところ、海外ではSC-70からSC-72に相当する「ベリーディープレッドフィルター」が手頃な赤外撮影向けフィルターとして売られています。 HOYAのR-72もそうですし、コダックの品番で言う89Bや88A、イルフォードがSFXフィルム用に販売しているSFXフィルター(715nm)もそうした仲間です。
Ekfe IR820やコダックHIEで、より劇的な赤外効果を得るには、さらに上の番手のフィルターを組み合わせていきます。

さて、これですと、フィルターがシート状の角フィルターですから、通常の使用にはそれに対応したフィルターホルダーが必要です。
お持ちでない方は手に入れましょう。それほど高いモノではないですし、角フィルターは種類が豊富で使いこなしがいがありますから、赤外写真ではなく一般の撮影でも重宝します。 撮影中の交換も簡単。ボクの場合は、円形フィルターよりも角フィルターの方が遙かに便利だと思ってますし、使用頻度も高いですよ。

しかし、やはり円形のフィルターでないと困るというケースも多々あるかと思います。 シートフィルム用のホルダーはかさばりますし、レンジファインダーカメラなどでは使えない事も多いでしょう。
そこで、円形フィルターの枠だけとか、あるいはステップアップリングなどに、丸く切ったシート状のフィルターをはめ込んでしまいます。 ちょっと手間ですが、制作費は案外安いもんです。 それはさておき、使うフィルターの番手は、フィルムの分光感度と狙う表現との兼ね合いなのでした。
イルフォードSFXやEfke IR820なら、可視光ギリギリで、フィルムの赤外領域の感度を有効に使うために720nmのものが手頃。 より赤外の感度があるフィルムで強い赤外効果を狙うなら、フィルムの分光感度の限界をにらみつつ、番手を上げていく事になります。
番手を上げれば、それだけ長い波長の赤外線だけを撮影する事になるので、表現は変わってきます。 いっぽう、撮影する波長の帯域を狭めていくので、同じ絞りとシャッター速度では露光量が減る、つまり撮影感度は下がっていく事になります。
その辺の兼ね合いは、みなさんの表現意図によりですね。
手持ちのスナップ撮影のために可視光も交えて撮影感度64くらいは確保しつつ、赤外風味を付け加える、なんていう味付けも、フィルターの選択にかかってきます。
くれぐれも、使っているフィルムで撮影出来る波長より高い番手のフィルターを使わないようにね。 エグい赤外写真が撮りたいからといって、イルフォードSFXに800nmのフィルターを組み合わせても写りませんから。 これはもう、分光感度の説明でおわかりですよね。

フィルターの装着
一般的なフィルター撮影だと、フィルターはレンズの前に取り付けます。 一眼レフカメラでは、レンズを通った画像をファインダーで見る事になりますので、当然フィルターを通った画像という事です。
しかし、赤外フィルターでは可視光を遮断しますので、ファインダーはほとんど真っ暗でなにも見えません。 SC-72ですら、明るいところがうっすら見えるくらいのものです。
そこで、まずは構図やピントを決めてから、フィルターを装着してシャッターを切る、という手順になります。
当然の事ながら三脚使用が前提となりますが、実際のところ赤外写真ではシャッター速度がどうしても遅くなりますので、三脚を使う事が多くなりますし、そもそも三脚使用が当たり前の風景写真などでは、少々面倒なだけであまり問題にはなりません。 実際、オレンジやレッドのフィルターだって、シャッターを切る直前に装着しますからね(ボクはね)。

とはいえ、シャッター速度はかなり遅くなりますが、日中屋外などでは手持ちのスナップ撮影もなんとか出来る範囲ではありますので、これもまた見逃せない撮影スタイル。 フィルムとフィルターの組み合わせにもよりますが、絞りf4〜5.6くらいで、シャッター速度1/30秒とか1/60秒程度は得られますから、十分可能でしょう。
その点、レンジファインダーカメラですと、都合のいい事にファインダーはTTLではありませんので、撮影レンズの前にフィルターが付いていても平気です。
これは、二眼レフカメラでも同じですね。テイクレンズとビューレンズは別々の光学系ですから。
したがって、レンジファインダーカメラや二眼レフカメラの方が、赤外写真ではなにかと使い勝手がいいという事も言えます。一眼レフよりスローシャッターでの手持ち撮影に強いですし、スナップ撮影にはなお好都合です。


SC-72をミラー室奥に取り付けたEOS Kiss
それでもやはり一眼レフが良いという場合、フィルターをカメラの中に装着してしまう方法があります。
一眼レフカメラのファインダーに写る像は、レンズを通ってミラーに反射した像です。 撮影するのはミラーが上に上がって通り抜ける像ですから、ミラーとフィルムの間にフィルターを装着すれば、ファインダーはクリアで撮影はフィルター越し、という事が可能です。
一般にシャッターより後ろのフィルム側に付けるのはちょっと難しいと思いますが、シャッターとミラーの間だとなんとか出来なくもありませんね。
右の画像はボクのEOS Kiss Liteです。 フィルター自体がほとんど真っ黒なのでよく見えなくてすみませんが、シャッターの手前にフィルターを装着してあります。
もちろん、シート状のフィルターを切って使います。



装着例 : コンタックス T VS
こうして取り付けたフィルターの着脱はそう容易ではないと思うので、カメラを1台、赤外撮影用として用意する事になるかもしれませんが、なにせ最近はフィルムカメラの中古は安いですから、一考に値すると思いますよ。

レンズ前にフィルターを付けづらいコンパクトカメラでも、内部にフィルターを装着するのが案外便利です。
左の写真はボクのコンタックスTVSですが、コニカ赤外750でのスナップ撮影用に、オレンジのフィルター(SC-56)がレンズ後部に取り付けてみた状態です。 フィルターをハサミで長方形に切って、テープで留めただけの簡単作業。散歩に出かける前に、ちょっと加工した程度のものです。

測光方法の都合
露出の決め方は後のページに記しますが、フィルターの装着は測光方法の都合も考えなくてはなりません。
例えば、可視光を測光して、それに対してのフィルター係数なりなんなりで露出を決めるアプローチでは、露出計がフィルターの後にあっては働きません。 これがオレンジやレッド程度のフィルターであればフィルター越しでも測光出来ますし、TTL測光でおおむね適正露出になりますが、可視光を遮断する赤外フィルター越しでは、可視光を測光する露出計は働きようがありません。
前述のように一眼レフカメラでミラーの後ろにフィルターを付けるのは、ファインダー像を確保すると共に、内蔵露出計による可視光のTTL測光を可能にする意味もあります。
レンジファインダーカメラでは、レンズにフィルターが付いていてもファインダー像はクリアですが、露出計内蔵のレンジファインダー機でも最近のものはTTLによるシャッター幕面反射測光がほとんどなので、シャッター幕よりも後ろのフィルム面直前にフィルターを装着しないと、内蔵露出計は使えない事になります。
一般にフィルター越しのTTL測光はフィルター係数を考えなくて済むから有り難いと思われ勝ちですが、赤外撮影ではかえって足かせになるケースもあるわけですね。

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