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ゾーンシステムもスポットメーターもグレーカードもフィルム濃度計も使わないキャリブレーション

露光不足が何故ダメかは、ネガフィルムの基本的な仕組みから明白ですよね。 露光量の少ない部分、つまりディープシャドウ部分はネガ上に画像が記録されませんから、プリントできずに黒く潰れてしまうわけです。
一方のハイライト側は、プリント時の露光時間を長くしたり、あるいは軟調な印画紙(低い号数)を使えばかなりの部分を引き出すことが出来ます。
現像量(コントラスト)についても同様で、印画紙の号数を変えることによってディープシャドウからハイライトまでのトーンを一通り揃えることは出来ます。
しかし、露光量も現像量もぴったり合っているネガからのプリントとは、明らかに見た目が違うのです。
現像量についていえば、軟調なネガからは硬調な印画紙にプリントすることになりますが、その場合にはトーンの滑らかさが失われます。 逆に硬調なネガから軟調な印画紙にプリントすると、見た目のシャープさが失われます。
では露光量が違うと何故プリントの見た目が変わるのでしょうか。
例えば、ネガの濃度を1〜7として、そのうち1〜4を印画紙の1〜4に投影するのと、ネガの4〜7を印画紙の1〜4へ投影するのとでは、何故違うのでしょうか。
それは、フィルムの特性曲線がスタートから真っ直ぐな直線ではなく、ゆっくり立ち上がるからで、フィルムによってはその後急激に濃度が上がったり、またフィルムによっては途中から濃度の上がり方が緩やかになっていくから、です。
そうした、直線ではない、それぞれ特徴のある曲線を有したフィルムの性格から、同じ範囲の輝度差を記録しても、ネガ濃度のどのあたりにそれがあるかによって、プリント上の違いを生みます。

左の図は、フィルムの特性曲線をわかりやすくちょっと大げさに書いてみたものです。 黒い曲線がフィルムの濃度を示す線で、グラフの横軸はフィルムへの露光量、つまり被写体の明るさです。 したがって、グラフの右に行くほど露光量が多い、つまりハイライト、左は露光量の少ないシャドウとなります。
赤と青とで線が書いてありますが、横軸が被写体の明るさですから、赤と青の横線の長さは被写体の輝度幅になります。
また、赤と青の縦の線は、フィルム濃度になります。 印画紙上に投影される画像の濃さの幅ですから、プリントのコントラストを変化させるのはこの縦線の長さ、という事になります。
つまり、横線の長さが同じで縦線の長さが短かったら、同じ被写体の明るさの幅にたいしてフィルムの濃度幅が大きくなっていないわけですから軟調、逆に横線の長さにたいして縦線の長さが長かったら、それだけ硬調という事になります。
そのため、フィルムの現像量(現像時間)を変えてネガのコントラストを増やしたり減らしたりすると、黒い曲線の角度が変わります。 黒い曲線の角度が急になると硬調、緩やかだと軟調です。

実は、この図の赤と青の線は、縦の長さが同じです。 つまり、ネガの濃さのうち、同じだけの幅を取りだしています。 どういう事かというと、同じ号数の印画紙に投影して同じだけの白と黒の差を作るという意味です。
さらに、実は、赤と青の線は、横の長さも同じなんです。
つまり、ほぼ同じ被写体の明るさの幅(輝度幅)を、同じ号数の印画紙上に再現してしまうのです。
それなのに、赤と青の線は、それぞれ違う場所にありますね。
青の方はシャドウ側に偏っていて、赤の方はグラフの右、つまりハイライトの方に偏っています。 青は撮影時の露光が少な目、赤は撮影時の露光が多いというのを表している図なのです。
この様に、違う場所に同じだけの被写体の輝度幅を配置しても、つまり撮影時の露光量が違っていても、同じように印画紙上に再現できる自由度を、ラチチュードという風に言い換えることが出来ます。
青い線と赤い線が撮影時に2EVの違いだとしたら、その中間から見ると露光の少ない多いそれぞれに1EVずつ、つまりプラスマイナス1EVのラチチュードがあるという事が言えます。
念のため、赤と青の中間から見てプラスマイナス1EVです。 赤から見たら、マイナス2EVのラチチュードあると言えますし、青から見たらプラス2EVのラチチュードでしょう。
仮に赤と青の中間が、撮影感度400での測光値なのだとしたら、青を基準にしてプラス2EVのラチチュードを持った撮影感度は800です。 逆に赤を基準にしてマイナス2EVのラチチュードを持った撮影感度は200です。
マイナス2EVのラチチュードを持った感度200、プラスマイナス1EVのラチチュードを持った感度400、プラス2EVのラチチュードを持った感度800。
どれも同じものを差しているのです。
さぁ、撮影感度って一体何なんだ、フィルムの感度って一体何なんだ、という事になりますね。

ここでもう一度、先の同じ図を見てみましょう。
赤と青とでは、横線の長さも同じ、縦線の長さも同じです。 しかし、それぞれの範囲にある黒い線、つまり肝心のネガ濃度の曲線は形が異なります。

青い線が囲っている範囲の黒い曲線は、左の方、つまりシャドウの部分が緩やかで、途中から急になっています。 この、グラフの左端に見られる緩やかな部分を「脚部」と呼びます。 ネガの濃度の上がりはじめは緩やかで、ある程度してから急にググッと濃度が上がり始めるのです。
これが何を引き起こすかというと、ディープシャドウ部分は軟調で、なかなかコントラストが上がらない、という事です。 コントラストが上がらないというのは画像がはっきりしないという事ですから、ディープシャドウのディテールというのは黒く潰れて見えるわけ。
逆にプリントの明るい方から順に見ていくと、ディープシャドウはなかなか真っ黒にならず、微妙な濃淡が残る、という事でもあります。
反対にハイライト側に向かっては、青い線が囲んでいる範囲ではストレートに伸びていますので、ハイライトまでずっとコントラスト上がり続ける事になります。

赤い線が囲っている範囲では、黒い曲線は左の方はすでに真っ直ぐに伸び始めた後ですので、ディープシャドウから中間調までしっかりしたコントラストが描かれます。 逆に言うとディープシャドウより暗い部分はスコッと真っ黒になります。
反対にハイライト側は途中から曲線の角度が緩やかになっていますので、ハイライトが白トビしにくいという風に良く解釈することも出来ますし、逆にハイライトにキレが無くネムイ描写になるという事も言えます。
ちなみに、ハイライト方向の角度が穏やかになる部分を「肩」と呼びます。 「脚部」はどんなフィルムにもありますが、「肩」の有無やその特性はフィルムによってかなり異なります。

被写体の同じ輝度幅を記録して、印画紙にそれぞれ全てを投影しているにもかかわらず、撮影時の露光量が少なかった青の方と、露光量の多かった赤の方とでは異なったプリントを生み出すわけです。
全体的に見ると、青の方は全体が濃く見え、赤の方は明るく見えるはずです。

この様に青と赤、それぞれの始点と終点を直線で結ぶと、それは平均線として同じ角度(同じコントラスト)を持っているのですが、青の方は実際のネガ濃度が平均線の下にあり、赤のほうは平均線の上に実際のネガ濃度があります。
プリントしてみると、青の方は全体として濃い上にシャドウ側により濃さが偏り、赤の方は全体として明るい上にハイライト側に明るさが偏ります。
この偏りの量や配置を、平均線と実際のネガ濃度曲線の差が示すわけです。
フィルムのこうした特性曲線は、それぞれメーカーが提供するデータシートに記載されているので、機会があったら是非見てみる事をお勧めします。
トライXやネオパンプレストなど、脚部と肩をしっかり持っている(特性曲線が緩やかなS字を描く)フィルムは、同じ被写体の輝度域を再現しても中間調前後の角度が急、つまりトーンセパレーションが良いので、画面にメリハリがあって、なおかつディープシャドウは潰れにくくハイライトは飛びにくいという特徴があります。
トライXやネオパンプレストの特性曲線に、上の図のような平均線を引いてみると、シャドウ部分では平均より暗く、ハイライト部分では平均より明るくなるのが分かるはずです。
潰れにくく飛びにくいため、被写体の輝度幅にある程度のバラツキがあっても容易に吸収しますし、プリントしやすいと言われるわけ。
ただし、露光量が少ない場合と多い場合とで見た目の印象が大きく変わってくる事になります。 特に露光過多だといわゆるネムイ、カッタルイ描写になりやすいです(言っちゃなんですが、非常によく見かけます)。
逆に直進性に優れた(ハイライト側に肩を持たない)フィルムは描写が安定していて、特にハイライトのディテールの描き方に魅力がありますが、中間調のセパレーションが特に良いという事ではないので、やや印象が大人しく見える被写体も多いかも知れません。

実を言うと、トライXやネオパンプレストなどのこうしたネガ濃度曲線(特性曲線)の非直線性は、ゾーンシステムのような単純なシステムではネックになります。シャドウ側、中間調、ハイライト側で、それぞれの1ゾーンがネガ濃度上で同量にならないからです。 そのため、ネガの特性曲線の直線部分だけを極力使うように設計されており、出来れば直進性の良いフィルムの使用が望ましいわけ。
また、印画紙の特性曲線もネガフィルムと同様に直線ではありませんので、その組み合わせは非常に複雑なものとなります。 (フィル・デイビスのビヨンド・ザ・ゾーンシステムはこれらを解説しています)

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