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キャリブレーションが出来たという前提で
さて、測光・撮影からフィルム現像、プリントに至るまでの一連の流れで、プリント上の黒から白までの間におさまる被写体の明るさの幅というのが分かりました。
おっと、正しくは、分かりましたではなく自分で決めました、ですね。
それこそが、お店任せのDPEや、機械に与えられただけのことしかできないデジカメと、モノクロフィルム自家処理の違いってモンです。
「標準現像を決めよう」を読まなかった方のために念のため書いておくと、次のような感じ。
無地の被写体を反射光式露出計の測光値からマイナス4EVして撮影すると、プリント上では真っ黒ではないけどかなり濃いギリギリの黒、マイナス5EVして撮影すると真っ黒。
プラス4EVして撮影すると真っ白ではないけれどかなり明るいギリギリのグレー、プラス5EVして撮影すると真っ白。
当然、測光値通りに撮影すると、平均反射率を基準にしてますからプリント上でも中間グレーという、先般から出ているこの約束事を、自分の撮影機材とフィルム現像とプリント手順で実現できるように調整したわけです。
測光値からマイナス○EVでどうこう、プラス○EVでどうこうというのは、もともとある約束事にはありませんでしたが、なぜそうしたかをこれからご説明します。
ヴィジュアライゼーション
ゾーンシステム、というのを聞いたことがあるかも知れません。
主にファインプリントを目指すモノクロの大判写真で使われるものですが、別に大判写真だけには限りません。
詳しくは別のコーナーにゆずりますが、簡単に言うと、被写体上の明るさ暗さ、つまり濃淡を、印画紙上の濃淡に置き換えるための仕組み、です。
モノクロ写真にとってこれがどれくらい重要かは語り尽くせないほどなのですが、基本的に、撮影者が撮影時に見ている被写体を、印画紙上の画像に描くというのが写真術ですよね。
撮影時に、今見ている被写体(サブジェクト)や風景(シーン)が印画紙上でどのように描かれるか、どのように描くかを知る、考える、決める、という行為を「ヴィジュアライゼーション(視覚化)」と言います。
なんだか観念的に聞こえてしまいますが、中間グレーを測光して現像プリントしたら中間グレーになる、というのだって、れっきとしたヴィジュアライゼーションですよね。
あらかじめ中間グレーが中間グレーになるという決まり事を定め、それを守っていれば、プリントを待たずとも撮影時にすでに中間グレーが中間グレーになる事は分かっているわけです。
ゾーンシステムでは、中間グレーだけではなく、被写体上の真っ黒から真っ白に至るまでが印画紙上の真っ黒から真っ白に結びつけられています。
| Zone 0 | 印画紙では完全な黒 | 測光値 -5EV |
| Zone I | 真っ黒よりちょっとだけ明るい黒。質感は感じられない。 | 測光値 -4EV |
| Zone II | 質感はあるが、暗くて詳細な事は読みとりにくい | 測光値 -3EV |
| Zone III | 暗い部分だけれどちゃんと詳細が見て取れる | 測光値 -2EV |
| Zone IV | 風景や人物写真での標準的な影の部分 | 測光値 -1EV |
| Zone V | 中間グレー。いわゆる平均反射率18%の部分 | 測光値 |
| Zone VI | 肌に優しく日が当たっている感じ。日の当たる雪景のシャドウ部 | 測光値 +1EV |
| Zone VII | 一般的景色で詳細を識別できるハイライト部分 | 測光値 +2EV |
| Zone VIII | わずかに質感を保つハイライト部分 | 測光値 +3EV |
| Zone IX | 輝く白の表面。質感を伴わないハイライト | 測光値 +4EV |
| Zone X | 光源。印画紙での完全白 | 測光値 +5EV |
このように、実際の被写体や風景の様子を中間グレー(平均反射率)を中心にしてプラスマイナス4EV、真っ黒と真っ白を含めて11EVに分類した「ゾーンスケール」に納められ、それぞれが印画紙上の濃淡に置き換えられるというわけ。
つまり、ゾーンシステムというのは、被写体のとある明るさが、プリント上でどんな明るさになるのかを撮影時に分かるようにする仕組みなのです。
正しく言い換えると、被写体上のとある明るさを、プリント上でどんな明るさにするかを考え決めるのがヴィジュアライゼーションという思考で、それを実行する仕組みがゾーンシステム、となります。
中間グレーを中間グレー、というのもひとつ。
中間グレーをプリント上では明るいハイライトに、というのももちろんあり得ます。
シャドウ部分をプリント上でもシャドウに、シャドウ部分をプリント上では中間グレーに、というのもあり得るでしょう。
なんとなく分かったかしら。
中間グレー部分を測光して測光値通りに撮影すればプリント上でも中間グレーに。
同じ部分を測光して、プラス3EVの補正をかけて撮影すると明るいハイライトに。
シャドウ部分を測光してマイナス2EVの補正をかけて撮影するとプリント上ではシャドウに、シャドウ部分を測光して測光値通りに撮影すればプリント上では中間グレーになりますよね。
ゾーンシステムではそうした単純な事だけでなく、被写体上で6EVしかないシャドウとハイライトの明るさの差を、フィルム現像を調整してプリント上では7EVにするとか、被写体上で7EVある明るさの差を逆に6EVにするといった調整も行います。
ま、それはもうちょっと後にチャレンジしましょうか。
今はそういう事もあるんだ、と言うくらいに覚えておきましょう。
スポットメーターとゾーンプレイスメント
さて、先ほどのヴィジュアライゼーションとゾーンシステムの簡単な説明の中では、お気づきになったかも知れませんが、全て反射光式露出計で、しかも被写体の「ある部分」を測光していると言うのが分かりましたでしょうか。
ずっとさかのぼって、このページの最初の方で、被写体の反射率が分からないとき、入射光式露出計と反射光式露出計のどちらを頼って良いのか、という問いがありました。
その答えは、反射光式露出計なのです。
特に、被写体(風景)の「とある部分」を測光できる、スポットメーターがもっとも頼れる露出計です。
そう言い切ると異論がいろいろ出てきそうですが、ゾーンシステムでは当たり前、ボクの経験、ボクが思いつく限りの写真術の仕組みにおいても、やはりスポットメーターが理想です。
スポットメーターで、被写体の中の中間的な明るさを持った部分を測光し、その指示値通りに撮影すれば、プリント上でもそこは中間的なグレーになります。
スポットメーターで、被写体の中の明るいハイライト部分を測光し、そこをプリント上でも明るいハイライトにしようと考えたら(そうヴィジュアライズしたら)、測光値にプラス3EVして撮影します。測光値プラス3EVが、印画紙上でどのような明るさのハイライトなのか、すでに分かっているのですから、何の不安もなく確信を持って撮影できます。
スポットメーターで、シャドウ部分を測光し、その部分を印画紙上では非常に暗いディープシャドウにしようと考えたら(そうヴィジュアライズしたら)、測光値にマイナス4EVして撮影します。
測光値マイナス4EVが印画紙上では、真っ黒ではないけれどディテールが分からないほどの濃い黒であることがあらかじめ分かっているので、作画意図通りのプリントを得ることが出来るのです。

こうした、スポットメーターで被写体のある部分を測光し、それを印画紙上の濃淡の意図したところに置き換える作業を、ゾーンプレイスメント(ゾーン配置)と言います。
もちろん、被写体のシャドウを印画紙上のディープシャドウに配置すれば、被写体上の中間がシャドウに、被写体のハイライトが中間近くに下がってきますが、その様子もあらかじめ分かるわけですし、シャドウをディープシャドウに配置しておきながらハイライトをハイライトのままに残すことも、フィルム現像を調整すれば可能です。それがゾーンシステムなのです。
スポットメーターを使ったゾーンプレイスメントは、それが許す限りの撮影において、もっとも理にかなったと同時に、写真家の作画意図をもっとも反映しやすい優れた測光方法です。
また、ネガフィルムであるという点から露光不足だけは避けなくてはなりませんが、スポットメーターでシャドウ部分を測り、必要なだけマイナス補正するという撮影方法なら、露出アンダーでシャドウが潰れるということは絶対に起きません。
その事でハイライトが仮に明るくなりすぎても、ほとんどの場合はプリント時にどうにでも出来ますが、露光不足のシャドウだけはどうやってもリカバー出来ないのです。
ネガフィルム上に情報が記録されないのですから当然ですよね。
モノクロとは限りませんが、ネガフィルムではこの様にシャドウを測って露光量を決める、というのが基本的には正しい測光方法で、シャドウ基準測光と言います。
逆にハイライト側が素ヌケになるポジフィルムではハイライトを基準にして露光量を決めますが、いずれの場合も、フィルムの能力を十分に引き出すためにもっとも理にかなっているのがスポットメーター、あるいはカメラ内蔵のスポット測光です。
次のページへ続く。
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