最短時間最大濃度法
という日本語はボクの造語かも知れませんが、最短時間最大濃度、または最小時間最大濃度というのは、モノクロ写真の自家プリントをするのに是非覚えておきたい必須科目。
英語では "Minimum Time Maximum Black" と言い、要するに「印画紙上で最大の濃度を得られる最短の露光時間」の事で、その露光時間を用いてさまざまな検証を行う方法も含めて意味します。
この方法は、フィルム濃度計を使わずにゾーンシステム的なフィルム感度の特定などのテストに使われるのですが、ゾーンシステムよりもさらに実践的な手法や、あるいは一般的なゾーンシステムが通用しない増感現像でのフィルム現像の妥当性などを検証するのに非常に有効です。
プリントにおいては、印画紙の表現能力を最大限に活かすためにも役立ちます。
ネガフィルムには薄いところから濃いところまで、つまりシャドウからハイライトまでの濃度差がありますよね。
その中で一番薄いところ、あるいは「もっとも薄くあるべきところ」を印画紙上で得られる「もっとも濃い黒」にし、ネガ上の「もっとも濃いところ」を印画紙のまっさらな白よりわずかに濃度のあるグレーであれば、ネガ上の階調を印画紙上に最大限引き出していることになります。
もちろん、そうではないプリントも表現としてありますから、これは絶対の物ではありませんが、露光の妥当性、ネガ濃度の妥当性、コントラストの妥当性をはかる場合、もっとも濃い黒からぎりぎり白ではないグレーまでと言う印画紙上の最大階調を意識することは大切です。
特に「最大黒」というのは「ぎりぎり白」より識別しにくいので、使っている印画紙と現像液の組み合わせで出し得る、最大限の「黒」というのを確認しておくことにも意味があります。
ボクがこれまでモノクロのフィルム現像やプリントをあれこれやったり考えたりしてきたなかで、あまり紹介されていないけれどもっとも単純でもっとも役に立つと思っているもの、それが「最短時間最大濃度法」です。
それは、人間の目がいかに黒の見極めに対してルーズか、という事を思い知らせてくれたものでもありました。
印画紙の黒を最大限に引き出す、という気合いの入った姿勢だけでなく、とかく初心者にありがちな「標準的なネガの濃さってどの程度なんだろう?」「自分のネガは適正なネガなんだろうか」という素朴な疑問にもあっさりと回答を与えてくれます。
この、「標準的なネガって?」という疑問は、だれでも心当たりがあるのではないでしょうか。ハイライト部分で新聞の文字が透けて見えるとか、そんな曖昧な表現でしか解説されないこの大切にして深刻な疑問への答えが、最短時間最大濃度法にはあります。
プリント時の露光時間の決め方
ボク自身が自家プリントを始めた頃に参考にした書籍では、露光時間の決め方は中間調を基準にして段階露光により適切な秒数を求めるという方法が書かれていて、ずっとそれを実践してきました。中間調を基準にして、シャドウとハイライトへの到達具合から印画紙の号数(フィルターの号数)を調整するという方法です。
ゾーンシステムの生みの親のひとりであるアンセル・アダムスも、著書「ザ・プリント」において露光時間の決め方はなるべくハイライトからシャドウまでを含む部分を段階露光して、と解説しています。
しかし、ゾーンシステムによって適正に露光・現像されたネガであれば理屈上、露光時間はゾーン0濃度で決められるはずです。
アダムスの「ザ・プリント」がゾーンシステム解説の「ザ・ネガティブ」と切り離して書かれているとボクは考えていますが、実際腑に落ちない点がそこにもあるわけです。
あるいは、多階調印画紙においてはハイライトの濃度はある程度一定で、号数によってシャドウへの到達具合が変化することから、露光時間はハイライトを基準にして決め、シャドウへの到達具合から号数を調整するという方法論も見かけます。
しかし、人間の目は明るいグレーでの微妙な差は容易に見分けられるのに対して、非常に濃いグレーの差を見分けるのは極めて難しいものです。
ハイライトを基準にして、判断しにくいシャドウへの到達具合によって適正なフィルター号数や露光時間を求めるというのは、果たして理にかなった方法なのでしょうか。
逆に、ディープシャドウをまず確定して、そこからハイライトへの到達具合を検証する方が、人間の目という検査器官には合っているはずだと、常々ボクは考えています。
まずは自分の感覚を検証してみる
このテストをやると、案外多くの人が「あれれ」っと思うかも知れません。
どんなテストかというと、自分の階調幅目一杯の「感覚」がどの程度ホントか、を試すテストです。
まず、普通に黒から白までを使う自分にとっての標準的なネガを用意します。
今までにプリントしたことがあるものでも、最近撮影した初めてのネガでも構いません。
引伸機にネガをセットして、普段通りにプリントを作成します。焼き込みや覆い焼きは無しの、ストレートプリントでね。
いつもと同じ感覚で、十分に締まった黒、妥当な中間調、綺麗に描かれているハイライトと、自分なりの「イイ感じ」のプリントを作ってみましょう。
多階調印画紙でも号数印画紙でも構いません。
普段からよく使う、自分の標準印画紙と標準現像液で、標準プリントを作るわけです。
次に、同じ印画紙をとりだして室内の灯りを点け、数秒してから消します。
その印画紙を現像すると真っ黒なプリントになりますよね。
真っ黒プリントと先ほど作ったプリントをいつも通りに水洗・乾燥して、明るいところで並べて良く見比べてみます。
普通のプリントのいちばん黒いところに真っ黒プリント並べて、どちらも同じように黒かったら、あなたは普段から印画紙の描写力を活かしたプリントを作っている事になりますから、その点では自信を持っちゃいましょう。
でも、なかなかそうはならないと思います。
あんまりにも差があったら、ちょっと考え物ですね。
もうひとつ、こういうのもやってみてください。
先ほどプリントしたネガと同じフィルムを同じ条件で現像した、素ヌケのネガを用意します。
ここで言う素ヌケのネガというのは、未露光で現像だけしたものです。
ロールフィルムの端の方に残っているはずです。
この素ヌケのネガを引き伸ばし機にセットして、先ほどのプリントと同じ絞りと露光時間で印画紙に露光します。
次に遮光性のある板などで印画紙の半分を覆い、室内の灯りに数秒間曝します。
それを現像すると、ほとんど真っ黒な無地のプリントが出来るはずです。
さて、素ヌケのネガを通してだけ露光した部分と、室内の灯りで大量に露光した部分との黒の濃さはどう違いますでしょうか。
この真っ黒プリントが無地とは程遠く、境目がハッキリ分かるようだったら、う〜ん、かなり考え物ですね。
逆に完全真っ黒だったら、これもちょっと微妙なんです。
撮影時の露光量が無駄に多いのかも知れません。
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