はじめに
実際には従来からこの方向性の処理は存在していて、決して真新しい発想ではないのだけれど、あまりに情報がない。
これを書いている段階ではなんら確たる証拠や実績がないので、かなり推測を交えてしまっているのですが、みなさまに是非お願いしたいのは、もし可能ならお試しになっていただき、この分野の開拓と情報共有のお手伝いをしていただきたいと言うこと。
特に、プリントの実用的な意味での耐久性についてです。
Anchellの"The Darkroom Cook Book"などにはいくつか印画紙用のPyro現像液処方が載っていて興味があったのですが、現在ボクはフィルムの現像(と現像済みネガの増力)にPyrocat-HDを使っていますので、それを印画紙現像に流用することでPyro染色による温黒調プリントの作成を試しています。
未確認だ、というのは、このPyro染色がどれくらい耐久性のある物なのかという点でして、フィルム現像に昔から使われているのだから問題はないという風にも思えますが、ネガの保存は普通は冷暗所で行われるので外気にさらされる印画紙では事情が異なるのではないかという懸念もあるのです。
それはさておき、具体的なサンプルと方法について、です。
一般に、フィルム現像は拡大される事を前提にした小さなネガに対して行いますので、微粒子化効果が求められたり、またフィルム現像はフィルムを目一杯現像しきってはいけないので、現像量のコントロールのために現像力を抑えたりする必要がありますが、印画紙現像液は通常は目一杯現像しきる事が求められ、また微粒子化効果は必要ありません。
また、フィルム現像液はフィルムの現像(一般的には短時間で終わる)の間だけ能力を維持できればいいものの、印画紙現像液は時に数時間におよぶプリント作業の間、出来るだけ酸化せずに能力を維持することが求められます。
したがって、フィルム用現像液と印画紙用現像液は通常は分けて考えられていますし処方の内容も異なりますが、実際のところ、現像そのものに関わる部分ではそう大きな違いはありません。
つまり、フィルム現像液で印画紙も現像できるし、その逆も当然可能です。
ただ、それぞれに対してより良い現像液としての性格が異なるだけのハナシ。
アグファロディナルのように、どちらでもOKとメーカーが謳っているものもあるわけです。
というわけで、フィルム現像液であるPyrocat-HDで印画紙を現像してみることにします。
ごく一般的なフィルム現像液と印画紙現像液とで、希釈後の使用液中の現像主薬の量を見比べてみると、印画紙現像液ではフィルム現像液の2倍から3倍を有している事がわかります。
そこで、Pyrocat-HDの標準希釈が1:1:100であることから、1:1:50として一般的なRC印画紙(イルフォードMG4RC)を現像してみました。
露光量
基本的に、普通の印画紙現像液と同様の現像力があれば、印画紙への露光時間はほぼ同じで問題ありません。極端に現像力が弱い印画紙現像では、フィルムと同じように露光量を増して現像を控えたような軟調現像となるのですが、Pyrocat-HDの1:1:50希釈ではごく普通の標準現像液とかわらない現像力であると思えます。
実際、標準現像液でテストプリントを作成し、同じ露光時間でPyrocat-HDで現像してもだいたい同じような濃度になるようです。
ただし、茶色いPyro染色によるはっきりした温黒調ですので、標準的な色調のプリントと並べてみるとかなり明るく見えます。
また、さまざまな色の中で最も濃いのは黒ですから、黒ではない色調の宿命として、最大濃度は純黒調などに比べ明らかに劣ります。
そこで、出来るだけ暗部が締まった印象にするために、標準現像液によるプリント作成よりも高いコントラストを狙って作った方がよいかも知れません。
現像
そもそもフィルム現像処方なのでアルカリが低く、またおそらくは乳剤面に触れている現像液の疲労が早いせいだと思いますが、攪拌を連続的に行っていないと現像の進行が停滞しやすいようで、標準的な印画紙現像液よりはやや余分に現像時間がかかります。
もっとも、ある程度の現像によって濃度が行き着くというのは変わりませんから、現像不足や現像過多という点では、標準現像液と同じと思います。
ただし、Pyrocat-HDで目一杯上げたつもりの濃度が、ほんとに限度かというとまた微妙なように思います。
あくまでも経験的な部分で確証はありませんが、Pyrocat-HDで現像した印画紙を(停止液に移す前に)続いて標準現像液で現像すると、ディープシャドウの濃度を上げられるように思うのです。
この際、中間調やハイライトは十分に現像されているので、標準現像液で残りを現像しても色調などは変わりませんし濃度にも変化が見受けられませんが、ディープシャドウだけはもう一押しできる、という感じです。
そこで、ボクはPyrocat-HDを入れたトレイの横にPQタイプの冷黒調現像液を並べての2浴現像を基本的な手法にしています。
問題点
これは既存のピロカテコール系印画紙現像液でも同じなのですが、印画紙現像液としては致命的な欠点があります。
それは、空気に触れると酸化しやすい使用液であるという事。
印画紙現像液は微粒子化効果が必要在りませんが、それでも普通の印画紙現像液には(いわゆる)微粒子現像液に多く含まれている無水亜硫酸ナトリウムが大量に使われています。
これは、微粒子化のためではなく、保恒剤としての役割です。

フィルム現像に比べて圧倒的に長時間、しかも広い面積で空気に触れるトレイで使用される印画紙現像液は、酸化による処理能力の低下を防ぐために大量の亜硫酸ナトリウムが用いられるのです。
しかし、Pyrocat-HDにはそれがありません。
では、使用液を作る際に亜硫酸ナトリウムを足せばいいのではないかと思えますが、これもダメで、Pyroによる染色は亜硫酸ナトリウムによって発生しにくくなってしまうのです。
それでは意味がありませんよね。
実を言うと、よく知られたハイドロキノンもPyroと同様に染色作用があります。
しかし、ハイドロキノンは過生成を得るためにメトールやフェニドンなどとペアで使われる物で、その過生成を生み出すのに亜硫酸ナトリウムが必要なため、ハイドロキノンによる染色作用というのは表面に出てこないのです。
(使われる無水亜硫酸ナトリウムにくらべてかなり大量のハイドロキノンを投入すれば、実はハイドロキノン単用でも温黒調の印画紙現像液となり得ます。アグファ120やアグファ123など)
それはさておき、保恒剤として必要な亜硫酸ナトリウムを使うと染色の効果が得られない以上、ピロカテコール印画紙現像液は使用液の保存性が非常に低くなります。
つまり、トレイに展開してから現像力を発揮し続けられる時間が短いのです。
また、酸化によってどんどん能力が失われますから、本来持っている現像力の多くは作業中に消えていくと考えてもいいと思います。つまり、現像できる枚数が少ないという事。
普通、標準的な印画紙現像液の使用液は一晩おいてもまだそれほど色も変わらず現像力が十分に残っている物ですが、ピロカテコール現像液では2、3時間でみるみる変色していきます。変色が始まってからもそこそこ現像は出来ますが、やはりディープシャドウの締まりは目に見えて悪化しますので、新鮮な使用液を作り直すなどが必要でしょう。
やる価値があるか
ピロカテコール現像液がそもそも日本国内では売ってないので、Pyrocat-HDなどを海外から買うか、あるいは自家調合するかしかないのですが、そこまでしてこの手法を用いるメリットがあるかどうかは微妙です。
セピア調色をはじめとして温黒調を得るにはさまざまな手法がありますので、あまり人がやっていない手法を試したい、あるいは他の温黒調手法よりも効果が高く処理も簡単であるから、など、なんらかの積極的な意味づけがなければボクはそれほどオススメはしません。
しかし、もしPyrocat-HDなどをフィルム現像に使っている方(日本でも結構増えていそうですね)であれば、是非一度お試しいただきたいと思います。
ボクも印画紙現像液処方はいろいろ試しましたが、温黒調でもなんでもない一般的なRC印画紙でこれほどの色調を出すのは染色か調色をおいては他に方法がないと思います。
そして言うまでもなく、Pyroによる現像時の染色は、現像後にブロマイド還元して再現像するセピア調色よりもはるかに簡単です。
なにしろ普通の印画紙現像の段階でこの色調を出してしまうのですから。
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